Make Sure The Dream 11

 次の日から、作業は始まった。閉店後、店を咲良に貸してもらい、衣装作りが始まった。颯たちは小屋探しと稽古のため 頻繁に訪れることはなかったが、メールで頻繁に近況を報告してくれるので、これといって支障になることはなかった。

「栞、順調?あまり無理したらだめよ〜」咲良は何かと気を遣って、夜遅くまで付き合ってくれていた。それは菜月も同じだった。 と言っても、この二人は明らかにいつもと違ったイベントを楽しんでいる・・・そんな感じだったが・・・。

 一週間後、閉店間際に元気のいい声が店内に響いた。
「小屋が決まったよ〜!」響がよろこんで駆け込んでくる。まるで子犬のようだ。
「ほんとに?どこでやるの?」咲良がレジの清算準備の手を止めて、入り口まで掛けていく。響の後ろから颯と匠も続けて入ってくる。 響と違って、二人の顔は少し複雑な顔をしていた。
「どうした?嬉しくないの?」咲良は二人の様子を見て、声を掛ける。
「いや、全然そんな事無いですよ!むしろ嬉しすぎて、どう喜んでいいのか・・・」匠は頭を掻きながら答える。
「林ノ宮青少年会館のステージを借りれることになったんだ。それも無料で。」颯は説明する。
「そこの館長さんは演劇にすごく理解がある人で、会館内の会議室もたくさんの小劇団に稽古場として場所を貸しているんだ。 そこのステージで演劇をするってことは、小劇団内では登竜門って言われているんだ。ここでやって館長さんに認められれば、 確実に売れるって言われているんだよ。」響は自慢げに説明する。
「凄いじゃん!チャンスじゃない?」菜月は興奮して三人を見つめている。
「そうなんだけど、今までそのステージでやってきた劇団は、公演履歴があって、そこそこお客さんもついてきたとこばかりなんだ。 全くの旗揚げでやったところなんて例がないんだよ。・・・館長さんに認められれば売れるし、認められなければ、消えていく・・・」
「でも、そんなすごいステージになんで無料でやらせてもらえる事になったの?」栞は率直に疑問を口にした。
「この世界、広いようで狭くてさ、今度照明を担当してくれる高校時代の先輩がさ、よく会館を出入りしていて、館長さんとも顔見知りだったんだ。 で、俺らの高校時代の舞台のビデオを館長に貸したら気に入ってくれたらしくて・・・」颯は困惑したように答える。
「ということは、芝居に関してはある意味すでに館長さんのお墨付きを頂いているってわけだ。あとは、どう宣伝するかね。これでお客さんが一人も いないとなったら、それこそ伝説になっちゃうでしょ。」咲良はたくらみのある顔でみんなの顔を見渡した。

 栞は一週間前の事を思い出していた。みんなで食事をした帰り道。颯が話してくれた芝居のお話を・・・。
「舞台はね、麻薬みたいなものなんだ。一度立つと止められない。逃げることができないものなんだよ。」
そう語る颯の瞳は輝いていた。
「俺の演技でお客さんが笑ってくれたり、泣いてくれたり、拍手が起こったり・・・。生で芝居をするとお客さんの反応が返ってくるんだ。 本当は俺がお客さんに元気をあげたいのに、俺がお客さんから元気をもらっているんだ。だから、少しでも恩返しがしたいから、芝居を 続けようと思っている。・・・迷惑かもしれないけど、そのために栞さんの協力が必要なんだ。」颯は真剣な目で語っていた。 栞は颯の力になれるが嬉しかった。なんとか颯の気持ちに応えたい。そう強く思った。

「ジャーン!出来たわよ!」ある日、咲良に召集された一同はある物を目にした。
「『スペースシャトル』のHPよ!必要でしょ?あ〜もう、ランキングサイトに登録しておいたからね。で、ここが役者専用のブログ。 あんたたち、ちゃんと書くのよ。女の子ファンをこれで獲得して、客席いっぱいにするんだからね!」有無を言わせず、咲良は容赦なく説明を続ける。
「で、こっちがスタッフブログ。栞あなたも書くのよ。意外にお客さんは舞台の裏側を知りたいものなの。あっ!でも、衣装の全貌は見せちゃだめよ。 もったいぶらせて、「衣装は劇場で!」的な感じにしなさい。」いつの間に『スペースシャトル』の制作担当になったんだ?
「続きまして、チラシのご紹介をさせて頂きます。」そういって登場したのは菜月だった。何枚かの殴り書きのようなイラストを見せる。
「早急にチラシも作成しなければならないと思いまして、何枚か書いてきましたのでご検討ください。」なぜか伊達メガネをして秘書気取りだ。
颯、匠、響はこの二人にたじたじだった・・・。