Make Sure The Dream 5

「疲れた〜。元気にしてた?二人とも」明るい声が店内に響く。栞と菜月は咲良のそばまで駆け寄る。
「お帰りなさい。今回の帰りは早いですね?明後日でしたよね、予定では・・・」
栞は驚いた顔で咲良に尋ねる。
「なんだ、なんだ?店長が早く帰ってくるとうるさいから嫌だって?」
咲良は笑い飛ばしながら栞の顔を覗き込む。
「はい、店長うるさいから仕事がはかどりません。」代わりに菜月がわざと真面目な顔をしてこたえる。 
「言ってくれるね、菜月ちゃん!今度の給料カットだぞ!」
「え!?それは困ります。いや〜早く帰ってきてくれて嬉しいな〜ねぇ、栞さん!」菜月は栞に助けを求める。毎度毎度の光景である。

咲良は荷物をバックヤードにおくと、店内へ戻ってきた。栞と菜月と話すためだ。菜月は外の自動販売機へコーヒーを買いに出かけた。 咲良は栞のミシン台の椅子に腰を掛けた。
「ねぇ、ねぇこれ見たことある?」それは手のひらに収まる位の小さな人形だった。
「ドゥカター人形って言ってね、タイのお守りなんだって。一体一体手作りで作られていて タイの若者の間で人気があるらしいんだけど、今ではアメリカやヨーロッパでも人気が出てきたんだって。 言っているうちに日本でも流行るでしょ」なんというか、かわいいというわけでもなくかといって見ていられない位ダサくもなく 印象の薄い人形に栞は感じた。こんなのが流行っているの?もっとかわいいのがあるだろうに・・・ しかし、そうは言っても憎める雰囲気の人形ではなくて、知らないうちに栞は人形を手に持って離さなかった。
「これを、売ろうかなって思って、うちでも」
「え?北欧の雑貨を扱っているのに、タイ・・・」
「栞ちゃん!分かってないのね〜これからはグローバルな時代よ。枠に囚われていては駄目よ。 このお人形だったら、いかにもアジアンという感じでもないし、そんなにも店のコンセプトから外れてしまうという 事にもならないと思うのよ。ヨーロッパでも流行っているんだったら、向こうを経由して日本に上陸した感じでおしゃれじゃない?」 強引な気もするが、確かに女の子受けはいいのかな?この人形。
「と、言ってももう、相談する前から仕入れてきちゃったんだけどね!」さすがというか、なんというか行動が早い。尊敬に値する。

 例のごとく、この「ドゥカター人形」をHPで紹介をし、瞬く間に人形は完売した。咲良の思惑通りだった。先見の明というのか お客さんの心をくすぐる術を知っている。この人形を紹介してから、意外にも男性客が多く訪れた。口コミで広がっているらしかった。 今までから男性客もいるにはいたが、それでもお客さんの大半は女性だった。しかし、こういう流行りものは男も女も関係ないという 事なのだろうか・・・。

「いや〜困った、困った!」店の営業が終わり、閉店後の片づけをしている時だった。咲良は栞と菜月に向かって話していた。
「ドゥカター人形が今日品切れになったでしょ?次の入荷が一週間後なのよ〜。今度の土日は品切れのままよ〜」
「いいんじゃないですか?元々は北欧雑貨屋さんなんだから、元に戻ったと思えば。」菜月は意外にあまり興味を持っていないようだった。 どうやら、アロアの存在が薄くなった事が関係しているらしい。アイドルの座を奪われた、そんなところだろう。
「そうは言っても売り上げが伸びているのも事実なのよ〜。」確かに最近、レジで扱うものはドゥカター人形ばかりだった。
「咲良さん、そうですよ。うちは北欧雑貨屋さんなんだから、あまりドゥカター人形に固執し過ぎてもよくないんんじゃないですか? 昔からの固定客さんが来なくなりますよ。」栞ももう一つ乗り気ではなかった。
「みんな、結構厳しいのね・・・わかった・・・ちょっと考えてみるね」すっかり肩を落としてしまった咲良は奥へと引っ込んでしまった。

(少し言い過ぎたかな)いつも店の事を第一に考えている咲良。その咲良が「TWINKLE」を壊すような事は決してしないと分かっているのに 思わず、言ってしまった一言。栞は少し気分が沈んだまま家へと向かっていた。今日も、天気が良かったので歩いてきていた。 公園の外灯がぽつぽつっと等間隔に点灯しているのは、どことなく幻想的な感じがした。
(そういえば、この間会った男の子、あれから公園で見ないな・・・)
別に気にしていたわけじゃないが、なんとなく、池のそばを通りかかった時ふと思い出した。
(確か、あっちの方へ駆けていったよね)青年が駆けていった方向を向いた。まさかとは思ったが、そこには青年が立っていた。 しかし、そこには彼だけでなく同じ位の年齢の子が他にも2人いた。そして、彼らは不自然なポーズで身動きをしなかった・・・。