Make Sure The Dream 15

 そして、本番当日を迎えた。照明、音響それに大道具で手伝いにきていたスペースシャトルの演劇仲間は要領を得ていて、テキパキと働いていた。 栞は何をどうしていいかわからないまま、とりあえず衣装にアイロンをかける。菜月は受付でパンフレットの準備をしていた。

 前日に照明と音響の確認も済み、リハーサルも順調に終わっていた。今日は本番に向けて最終的な確認だけだった。 照明が明かりの調整をしているのを颯は客席から眺めていた。
(とうとう、今日、自分たちが作り出した作品が形になるんだ…)
そう思うと、颯はこみ上げてくるものがあった。
ばんっ!
 不意に後ろから、頭を叩かれる。振り返ると、匠だった。
「まだ、早いんじゃないの?感動するには」背もたれを乗り越えて、隣に腰掛ける。
「なんか、まだ信じられないよ。ここにお客さんが座って、俺たちの芝居を観てくれるってさ・・・」
「確かに、信じられないよな。それにチケット完売したんだろ?キャパ200とは言え、旗揚げ公演でチケットが完売したのって かなりすげーことだって、館長言ってたよ。俺たちは、ただお客さんに恥ずかしくないステージを見せるだけだよ。 まぁ、楽しもうぜ。」そういって匠は手を伸ばしてきた。颯は無言でそれに応えるように、握手を交わした。
「おい、なに二人で話しているんだよ!音きっかけのチェックしているのに!」響が叫びながらステージから走りこんできた。
「お前は、音響やっておけばいいんだよ!」匠は走りこんできた響の腹にパンチを食らわす。響はよろめきながら、匠の胸に頭突きをする・・・ いつもの二人のケンカに颯は思わずほほえんだ。

 栞は楽屋口で受付準備が終わった菜月とコーヒーを飲んでしばしの休憩をとっていた。菜月は興奮した様子で栞に話しかける。
「栞さん、とうとうこの日が来ちゃいましたね〜。うわぁ〜どきどきする〜」
「そうだね、私たちでさえ、こんなにどきどきしているんだから、あの三人はもっと感慨深いものがあるんだろね」
「どうなんでしょ?さっき、ちらっと会場覗いたら、いつもみたいに匠さんと響君が取っ組み合いのけんかしてましたよ」
「そうやって気を紛らわせているんじゃない?」
「そうかもしれませんね。そうだ!ちょっと行って挨拶してきません?きっと、颯さん、栞さんが行くと元気が出ると思うし」
「なんで私がいくと元気が出るのよ?」
菜月は栞を見て、わざと深くため息をついた。

   客席を二人は覗いてみたが、そこには誰もいなかった。ステージに目をやると『スペースシャトル』の三人は照明の当たりを確認していた。 さっきまでのけんかとは違い、重々しい雰囲気が三人から感じられる。いよいよ、ステージの幕が上がる。栞と菜月は客席から三人を眺めていた。

 開演10分前…客席は満員で、ざわざわと話し声が舞台袖まで届く。栞は舞台袖で三人の衣装に汚れやほつれがないか確認する。 不意に後ろから颯に声を掛けられる。
「栞さん、本当に今日までありがとう。ここまで、これたのも栞さんのお陰だよ」 颯は手を差し出してきた。
「そんな私はお手伝いしただけで、颯さんの力ですよ。」栞は颯の差し出した手に応え握手をする。
「ありがとう。ここからが本当に本番だ。栞さん、良かったら客席から僕たちの芝居を観ててよ」 颯はそう言って栞を袖から見送った。