Make Sure The Dream 13

 次の日、約束通り栞は颯たちの稽古場を訪れた。もちろん、咲良と菜月も一緒だ。稽古場へ行くと聞いて黙っている二人ではない。
「楽しみですね〜。私お芝居って、学校の鑑賞会で見た位なんですよ。どんな風に練習しているのかな〜」菜月は軽やかにスキップを しながら前を歩いていた。
「そりゃ、『三銃士』をテーマにしているって位だから、チャンバラみたいなことやっているんじゃないの? 私、こう見えても小さい頃はチャンバラで負けたことないのよね〜。なんだったら教えてあげてもいいけどね〜。」 咲良は見えない剣を振り回していた。・・・(それだったら、時代劇ですよ)栞は咲良の構えを見て声に出さず呟いた。

 稽古は夜の7時からという事だった。現在7時10分。ちょうど始まった頃だろう。三人は颯から聞いていた部屋の前に立っていた。
「栞、本当にこの部屋なのよね?」不審そうに咲良が栞に尋ねる。
「なんの音もしませんよ。間違いじゃないですか?」菜月も不安そうにドアに耳を当てる。
栞も不安になり、もう一度颯のメールを確認する。
「間違いないです。この部屋です。」栞はプレートに書かれた部屋番号と携帯の画面を見比べた。 そのとき、プレート下にある張り紙が目に入った。
「あれ?なんですかね?これ・・・」そこには、『スペースシャトル、試験会場はこちらです』と書かれてあった。
「スペースシャトルって書いてあるって事は、やっぱりここで間違いないですよね。でも、試験会場ってどういう事でしょ?」 頭の中が「?」だらけに三人はなってしまった。
「よく分からないけど、とりあえず、入ってみましょ!」咲良は強引にドアを開いた。

 そこには、スーツを着た『スペースシャトル』の三人が並んで座っていた。
「みなさん、お時間は守って頂かないと・・・10分も遅れていますよ。社会人としてどうなんですか?」響は似合わない 伊達メガネをしていた。
「とにかく、お座り下さい。さっそくはじめさせて頂きます。」匠もいつもの優しさが消え、クールな雰囲気だった。 真ん中に座っている颯は難しい顔をして、書類をのぞき込んだままである。
「一体これは何なのよ?ちゃんと説明しなさい!」咲良は訳もなく進められる試験に苛立ちを感じ、声を荒げて言った。
「これから皆さんにはどれだけ『スペースシャトル』を理解して下さっているかテストをおこないます。 僕たちは本気でこの『スペースシャトル』を作っていこうと思っていますので、どうぞご理解下さい。」響の真剣な表情に 思わず、咲良は息を飲みそのまま椅子に座り込んだ。

「では、まずはじめに『スペースシャトル』において、誰が看板を背負ったらいいと思いますか? 理由も併せてお答え下さい。では、菜月さん」いきなり、指名されて、菜月は目を白黒させていた。
「えっと・・・匠さん・・・かな・・・」匠が一瞬笑ったように、栞には見えた。
「ほう、理由は?」響は納得してないようだった。
「う〜ん、華があるから。」匠はふんぞり返って腕組みをしている。
「君はいい目を持っているね〜。」
「次、咲良さんは、いかがですか?」響は、匠を無視して続ける。
「私も、誰かと言われると、匠君かな〜」匠はご満悦の様子だ。
「理由は?」響は先ほどの試験官らしさが消え、咲良に不機嫌そうに聞く。
「ルックスいいし、ファンサービスも良さそうだし。いいんじゃない?」響は「そう」と呟いて黙ってしまった。 すると、今まで黙っていた颯が堪えきれなくなったように肩を震わせ、とうとう吹き出して笑い出した。

「もう、いいんじゃない?俺、限界・・・」この言葉に匠も響も一気に気が抜けたように、姿勢を崩した。
「えっ?一体どういう事?」栞、咲良、菜月は訳も分からずいつもと変わらない表情に戻った三人に戸惑った。

「ごめんなさい。別に困らせる訳じゃなかったんです。俺たちいつも、稽古に入る前、台本を使わずにテーマだけを決めてその場で 出た言葉を台詞にする練習をしているんです。今日は、みんなが来るし、折角だからみんなを巻き込んじゃおうって響が言い出して それで、こういう事やったんです。ほんと、すみません・・・。」颯が頭を下げる。
「そういう事だったの。もうビックリしたわよ。別人みたいだったから・・・」咲良は腰に手を当ててわざと怒ったような顔をする。 でもまんざらでもないだろう。咲良はこういうサプライズが大好きだった。
「それは俺たちの演技力ってやつだよ」得意げに響は答える。
「でも、やってよかったんじゃない?これで誰が看板を背負えるか分かったわけだし。」匠はわざと響を見下ろすように言う。 響はそれを聞こえないふりをして、栞の方を向く。
「でさ、栞さんは誰だと思う?」全員の目が一斉に栞の方へ向く・・・。
「・・・私は・・・やっぱり・・・颯さん・・・」
その時、なぜかみんなの視線は優しかった。その理由を当の栞は全く理解していなかった。