Make Sure The Dream 16

 栞はロビーに回り、後方の扉から客席へと向かった。ほぼ満席だった客席はざわついていた。 各々にパンフレットや挟み込まれていた他の劇団のチラシを眺めたり、談笑していた。

 栞は後ろの壁に寄りかかりぼーっと開演時間まで待っていた。

 まもなくして、「ジーッ」という、開演5分前のブザーが鳴った。音を聞いてさらにざわめきが大きくなったように聞こえる。 栞がきょろきょろと客席を見渡していると、栞の後ろから不意に小さな女の子が扉を勢いよく開けて、飛び込んできた。

「お父さん、早く、早く!」女の子はそういうと、後ろからスーツ姿の男性が息を切らせながら入ってきた。
「危ないから、ゆっくり歩きなさい」男性は、女の子に注意を促し、扉の側で目を白黒させて見ていた栞と目が合うと、軽く会釈して後方の席に腰を下ろした。 栞も慌てて、会釈をする。会釈をしながら、何かが引っかかった。(どこかで、会ったことあるかな?)
 しかし、栞が思い出す間もなく、芝居の幕は上がった。



今という時間は「今」しかなくてそんな事を言っている間に、「今」は過ぎて新しい「今」がやってくる。 永遠とその繰り返し。だから、一瞬一瞬が新しい自分。「今」を生きている自分は「今」しかいないんだから・・・。
 だから、私は「今」を笑顔で過ごしたい。


 栞は、いつものように、「TWINKLE」へ向かう。今日も天気がいい。公園から店へと向かう。そして、池の横を通り過ぎる。初めて颯に会った時の事を思い出す。
(あの時は、4月だったんだよね)もうすっかり、秋模様になった公園を眺める。

   突然、突風が巻き起こる。マフラーが飛ばされないように、握りしめる。公園の絨毯となっていた、木の葉たちは一斉に舞い上がり、ひらひらと池に落ちていく。

「あっ…」栞は思わず、一枚の木の葉を手に取る。あの時は手を伸ばして取れなかった…でも、今は一枚…木の葉だけど、手にしている。栞は思わず微笑んだ。
 栞は木の葉を一枚手にしたまま、店の方へ向かおうと振り返る。その先には、颯がいた。突然目の前に現れた颯に驚いた栞だったが、不思議と不自然には感じず 颯の側まで歩いていく。

「やっぱり、ここが僕たちの原点だからさ…ここに来ないと良いアイデアが浮かばないんだ…」ちょっとはにかみながら、颯は言う。
「そうだね。私たちが初めて出会った場所。それからみんなが練習していた場所。初めはビックリしたな〜 みんな変なポーズをして動かなかったんだもん。」
「そういえば、そうだったね。まだ、数ヶ月前の事なのに、とっても昔に感じるよ。」
「それだけ、充実していたんだね。毎日が…私もそうだった。とっても楽しかった。これもみんな、颯さんやみんなのお陰だよ。 本当にありがとう。…これからもよろしくね。」栞は手に持っていた木の葉を差し出す。
「こちらこそ…」颯が手を伸ばそうとした、その時、颯の後ろから匠と響が飛び出してきた。
「こんな颯だけど、これからもよろしくね〜栞さん」そう言って、颯を栞の方へ突き飛ばし、二人で走って逃げていった。




今でも、何でもない当たり前の事を幸せに感じる。あの時はそれだけで十分幸せだった。しかし、今の栞は違った。『夢』が出来た。
誰にも作れない舞台衣装を作ること・・・
 その夢を与えてくれたのは、『スペースシャトル』のみんなだった。栞を何も出来ないと思い込んでいる自分からひっぱりあげてくれた。
 栞は、今見ている景色が、とても眩しく感じた。そして、これから起こるであろうステキな出来事に嬉しさでいっぱいになった。

おわり・・・