Make Sure The Dream 4

 というわけで、「TWINKLE」のホームページが公開されて1ヶ月。反響は栞が予想する以上に大きかった。 その背景には咲良が以前からやっていたブログ『SAKURAの北欧記』の固定訪問者も一役買っていた。 咲良がブログで「TWINKLE」のホームページを公開したと書けば、そのネットワークは恐るべし・・・ 最近では、わざわざ遠くからホームページを見たというだけで訪れるお客さんも現れた。

(やっぱりこのご時世、インターネットの役割って大きいんだな)
インターネットによって巻き起こる 事件はここ最近本当に増えてきた。栞にとってインターネットはあまりいいイメージは持っていない。 しかし、こうやってホームページをきっかけにお客さんが来てくれ、話が弾むと「悪いこと」だけじゃないと いう事が分かってきた。

 パッチワークであしらったペンケースを完成させ、伸びをしながら時計を見ると12時を少し過ぎたところだった。 店内を見回すとお客さんは一人もいない。
(めずらしいな、この時間に誰もいないなんて・・・)
菜月は店内のディスプレイを直していた。栞は菜月の方へ歩きながら声を掛けた。
「菜月ちゃん、今、お客さんもいないし休憩どうぞ。」
しかし、菜月は生返事で真剣にディスプレイを直していた。
「・・・やっぱり、人形の洋服が赤色系だから、派手な色は持ってこない方がいいよね・・・」
ぶつぶつ呟く声が聞こえる。そこは菜月が担当している日用雑貨のコーナーだった。栞が作った女の子の人形に 毎回お勧めの商品をコーディネートしている。どうやらランチョンマットを人形に持ってもらおうと悩んでいるらしい。 見ると人形は厚手の洋服を着たままだった。確か去年のクリスマス前に作ってあげたワンピースだ。
「あ、その子冬服のままだったんだね・・・春用のお洋服作ってあげないとね・・・」
菜月ははっとして顔を上げた。
「うわ〜びっくりした!いつからいたんですか?」
栞は驚かれた事に驚いた。いつも周りに気配りができる菜月にしては珍しい。
「どうもしっくりこないんですよ。ここのディスプレイが・・・」
「やっぱり、冬服でワイン色の洋服だから、重たい感じがするんじゃない? ランチョンマットは春色のパステルカラーばっかりだし・・・」
「人形のお洋服で雰囲気変わりますか?じゃあ、じゃあ、栞さん・・・お願いします!」
菜月は手を合わせて懇願するように栞を見つめた。
「もちろん、作るよ。でも、どんな感じがいいかな〜」人形を抱き上げてイメージを考える。 菜月は走ってバックヤードへ引っ込むとすぐに戻ってきた。手には子供服のカタログを持っている。
「ちょうど、この間、デパートでこのカタログもらったんですよ〜」それは、デパートに入っているショップのものだった。 春の新作が紹介しているカタログというよりはチラシのようなものだ。 デパートに入っている全てのショップが網羅されていてチラシとはいえ見応えがある。 菜月はピラピラと何枚かめくってからパッと栞の方へチラシを渡した。
「これっ!この子に似合うと思いません?」3歳位のおさげ髪の女の子が風船を持って立っている写真だった。 女の子が着ている洋服はクリーム色の生地にたくさんの小花が散らしてあるワンピースだった。 裾にはレースがふわふわとついていてアクセントになっていた。たしかにこの人形には合いそうだ。
「わかった!じゃあ、これ作ってみようか」
「ありがとう!栞さん!良かったね〜アロアちゃん!」
「アロアちゃん!?」
「そう!アロアちゃん。この子の名前。この間フランダースの犬のDVDを借りて見ていたの。 そしたら、アニメのアロアちゃんとこの子が似ていたから、そう呼ぶ事に決めたの」
「へぇ〜。よろしくね!アロア!」栞もこの子がアロアに見えてきた。

 栞と菜月がアロアを挟んで、ほのぼのとしていると突然、大きな声が入り口から聞こえた。
「ただいま〜!!!あ〜疲れた!」店長の咲良だった。