Make Sure The Dream 12

 そんな感じで始まった咲良と菜月の強力サポートの甲斐あって、HPへのアクセスと共に、着実にチケットも売れていた。 颯たちも練習の合間を縫っては練習風景をデジカメで撮ったり、ブログへの書き込みも続けた。三人ともはじめは完全に咲良に 圧倒されて始めたのだが、書いていくうちにたくさんの人が読んでくれていることに喜びを覚え、今では自分たちから積極的に 書いているようだった。

「いい傾向ね〜。」咲良は店で『スペースシャトル』のブログを見て、うなずいていた。
「結構、まめですよね。颯さんってやっぱり台本書くだけあって、文章が綺麗ですよね。匠さんは一人一人にコメントをちゃんと 返しているし、一番問題そうだった響さんはデジカメで練習風景やオフショットを載せているから、ついつい覗いちゃいますよね。」 菜月も咲良の横から覗いていた。栞も一息ついたところだったので、二人のそばまで来てパソコンを覗き込む。
「へぇ〜、みんな面白いですね〜。すごいなぁ〜」咲良がHPを作ってから栞はまともにHPを見たことがなかった。機械系が ニガテな栞は自宅にパソコンが無かった。たまにこうして咲良が開いているのを見せてもらうだけだった・・・。
「栞、あんた全然スタッフブログ書いていないでしょ?折角携帯で送れる方法教えたのに・・・。」咲良が一度も書き込まれていない スタッフブログのページを開く。そこには無情にもカテゴリーに「0」と表示されたままのブログが存在した。
「なんて書いたらいいか分からなかったんです。難しそうだし・・・」栞は小さくなって答える。
「あ〜、だから駄目なのよ!いい!女もこれからは、この位扱えないと駄目なのよ!やってみようと思うことが大事なの! わかった?」咲良の勢いに押されて、栞は「ハイ」と小さく返事をした。

(どうしよ〜)栞は、携帯を持ったまま立ち尽くしていた。ブログに記事を送ること自体は難しいことではなかった。メールの要領で 送ればいいだけだった。問題は記事である。『スペースシャトル』の三人は言ってみれば、主役だ。彼らがどんな風に練習しているのか 練習中どんな会話をしているのか、見ている人たちにとっては興味を持つものだと思う。だけど、自分はどうなんだろう。 ただ衣装を作っているだけで、そんな裏方の誰とも分からない人間の記事を読んで楽しいと思うのだろうか?栞にはどうしても 書くことが浮かばなかった。栞はさっきから何一つ書かれていないメール作成画面を見てため息をついた。
 そして、栞は宛先を消して、颯のアドレスを呼び出した。

「こんばんわ。練習は順調ですか?咲良さんから『早くスタッフブログを書きなさい』って催促されたんだけど、何を書いて いいか分からないんです。どんなこと書いたらいいかな?」

 10分程して颯から返事がきた。

「こんばんわ。練習は順調ですよ。匠も響も調子がよくて、どんどん新しいアイデアが湧いてきています(^^)☆ さっきのメールの件だけど、例えば咲良さんや菜月さんの様子でもいいと思うよ。彼女らがどんな風にHPを管理しているのか チラシを作っているのか。お客さんってそういう見えない裏側を知りたがるしね・・・。あっ!それから、もしよかったら一度練習見に来ない? 練習風景とか僕ら役者の視点からだけじゃなくて 別の人から見た視点で書くときっと見ている人も楽しいと思うんだ。それに、僕らも見てくれている人がいる方が 練習に覇気も出るし・・・どうかな?」

 颯はわずか10分程の間に丁寧に答えてくれていた。颯の人の良さが表れていた。栞はなんだか元気になって返信をした。

「ありがとう。それなら書けそうな気がします。それから、お言葉に甘えて明日練習見に行きます♪練習頑張って下さい!」

 そして、その日初めてブログの記事を送信した。

「こんにちわ!衣装を担当してます『SHIORI』です。これから少しずつですが、『スペースシャトル』の裏側を書いていきます。 今日はまずこのHPを立ち上げるにあたって忘れてはならない制作スタッフを紹介します。
彼女の名前は『SAKURA』永遠の25歳です・・・・」

 一気に堰を切ったように書き始めた栞の暴露話に咲良は後から悲鳴をあげることになった。