Make Sure The Dream 3

 ポストへダイレクトメールを投函して店へ戻るとすでに2、3人のお客さんが店内にいた。
「いらっしゃいませ。」声を掛けながら栞はいつもの自分の席へと向かう。レジ横に設置されたミシン台だ。 業務用の足踏みミシンを使っている。店で働くまでは趣味程度の洋裁だったため、足踏みミシンなど見たことも 触れたこともなかった。しかし、いざ使ってみると家庭用では糸の調子が合わせづらいジーパン生地も簡単に 縫う事ができ、栞は一気に足踏みミシンに夢中になり、扱い方を勉強した。

 ミシン台は窓際にあり、今日のような天気のいい日は手元が明るくて作業がはかどる。これもまた、栞にとって 幸せな事だった。栞が作業を始めると、いつの間にか周りに人だかりが出来る事もしばしばだった。 始めは恥ずかしくて作業が出来なかったが、段々慣れてくると即席でお客さんのご要望の小物を作ったり 洋裁について話をしたりと楽しむ事ができた。栞がこうして店内で小物を作っている事が最近では噂として広まっており、 見学目当てで訪れるお客さんも多くいた。その噂の原因の一つとしては最近オープンしたホームページだった。

 1ヶ月前店長の咲良が「お店のホームページを作ろう!」と言い出した。今まではハガキでのダイレクトメールに 頼り切っていたが今の時代はインターネットも使わなくてはいけない!そう思ったらしかった。
「でね、店内の写真なんか載せたり、新商品を紹介するの〜。もちろん、お買い得情報なんかもね!」

 咲良は自称25歳の女店長。とは言え、毎年毎年25歳と言っているので正直何歳かは栞も菜月も知らなかった。 栞が分かっている事は来年で咲良と同い年になってしまう事だけだった。 しかし、咲良には25歳と言われてもうなずいてしまうだけの若さとセンスがあった。 彼女が買い付けてくる小物は古くささを感じさせず、それでいて時代に乗りすぎていない風合いがあった。

「それだったら、栞さんが小物を作っているところも紹介したらどうですか?実際の小物も紹介して! 絶対人気でますよ!」菜月もホームページに乗り気の様子だ。
「ほんとね〜!それいい!ナイスアイディアよ!菜月ちゃん!」咲良と菜月は二人で盛り上がり始めた。
「で、そのホームページは誰がつくるんですか?」いつもこうだ。咲良と菜月が盛り上がり、 そこへ栞がぽつりと現実へと引き戻す一言をはなつ。
「ほんとだ〜!私パソコン関係全然だめです〜。ホームページってそんなに簡単にできるもんじゃないですよね?」 菜月は一気にシュンと肩を落とした。しかし、言い出した咲良はと言うと勝ち誇ったように満面の笑みで二人を見下ろしていた。
「私が何の策もなく提案すると思う?大丈夫!私が作るわ!」
「店長!ホームページ作れるんですか!?」栞と菜月がステレオのように同時に尋ねた。
「もちろんよ!あなた達には黙っていたけど、ブログも一年前からやっているのよ〜『SAKURAの北欧記』ってタイトルでね〜」
(店長・・・ほんとにあなたはいくつなの・・・)栞は唖然とした・・・
「実はもう、レイアウト出来ているのよ〜。見てくれる?」咲良は鞄からノートパソコンを取り出した。

(一体いつこんなものを作る時間があるのだろう・・・)栞が知る限りの咲良は1ヶ月に一度は北欧への買い付け。 日本へ帰国してからも店の経営やディスプレーの準備などで連日残業をしている姿しか目にしていない。

 ホームページはかなりの出来映えだった。「TWINKLE」の雰囲気がそのままホームページに出ている。 (さすが店長だ)栞はホームページに釘付けになっていた。 店内の写真もすでに掲載されていた。
「すごい!店長!完璧じゃないですか!即インターネットにのせれますよ〜」菜月もはしゃいでいた。
「そう?よかった〜!頑張った甲斐があったわ!じゃぁ・・・あとは栞ちゃんの作業姿だけね♪」
「えっ!?」いきなり二人の視線が自分の方へ向けられたので、栞は声が上擦ってしまった。
「やっぱり、この店の名物は栞ちゃんの作品なんだから、栞ちゃんには登場してもらわないと〜」咲良はいつの間に 出したのか手にはデジカメが用意されていた。