Make Sure The Dream 7

 高校では三人とも、演劇部に所属していた。部員が多い中、彼らは主役をはる程の実力があった。
 颯はその頃から脚本作りに取り組んでいた。三年生の時には都の戯曲コンクール高校生部門で入賞した実績もある。 演技をしている彼も生き生きとしていたが、どちらかと言えば演技指導をしている彼の方が頼もしく輝いていた。
 匠は手先が器用で小道具や背景などの作製を好んでやっていた。器用さは芝居にも現れ、主役でも悪役であっても 完璧な芝居を見せた。学校では密かにファンクラブも存在していたらしい。と言うのも、女性の扱いも 器用だったからだ。
 響は芝居よりもミュージカルに向いていた。生まれ持った伸びやかな声と幼少から習っているジャズダンスは 彼の大きな魅力だった。
 しかし、そんな彼らも卒業後は別々の進路に進んだ。 颯はT大文学部。匠はM大経済学部。響は音楽関係の専門学校へと進んだ。 生まれながらのクリエイティブ肌の響を除き、颯も匠も演劇が好きだったが、まずは自分の教養を高めようと大学進学を決めた。 現在颯と匠は三年生。響は去年卒業して今はイベント会社で音響の仕事をしている。
 高校卒業後も仲の良い三人だったので、よく一緒に劇団の芝居を観に行ったり、飲みに行ったりと会う機会は多かった。 彼らは決して演劇を諦めた訳ではなく、いつかは活動する!と決めていた。
 去年の暮れ、「忘年会」と格好つけた、いつもの「飲み会」が開催された。 毎度毎度、連んでいる連中なのだが、この日はいつになく真剣に語り合った。 三人にはそれぞれ共通の秘めた思いがあった。「芝居を作りたい!」 三年の間に温めた材料はたくさんあった。今なら出来る!三人は確かめ合った。そして・・・
 1月に演劇ユニットが結成された。

「演劇ユニットの名前は『スペース・シャトル』って言うんだ。」
響が教えてくれた。彼らのテンポのいい会話を 聞いている間に時間はタップリと過ぎた。今は場所を移して、近所のカフェで話している。春とは言え、日が暮れると 肌寒い。栞は温かいカプチーノが体中に染みわたるのを感じた。
 それにしても、今の状況、普段の栞からすると考えられない事だった。どちらかというと控えめで自分からは 積極的に声を掛ける事などない自分が、たった今知り合いになった人達とこうやってカフェで話している・・・ 栞自身不思議だった。
(多分、この人達には人を惹きつけるパワーを持っているのよ)
いつまでも、会話がとぎれる事がない。彼らの会話は聞いているだけで楽しかった。
「なんで、『スペース・シャトル』になったかと言うと、世界だけじゃなくて広い宇宙に俺たち飛び出したいんだ! 安易なネーミングかもしれないけど、分かりやすくていいだろ?」
響は身を乗り出している。テーブルのコーヒーが こぼれそうだ。
「響の案だけど、別にこれって対抗馬もなかったし、反対する理由もないって事で決まったんだ。」
匠は『俺のセンスではない』と言わんばかりの言いぐさだった。
「でも、やっぱり名前を多くの人に覚えてもらいたいし、『スペース・シャトル』で良かったと思うよ。」
これは颯。
「匠はさ、俺の才能を妬んでて、いつもこうやってまずは俺の意見を否定するんだ。素直じゃないだろ?」
響は颯の言葉で追い風を得たように勝ち誇った顔でソファにふんぞり返る。
「言ってろ、言ってろ。」
匠は響に背を向ける。何度となく同じ光景を見たような気がする。それで、数分後には何もなかったように 仲がいいのだ。なんだかんだで、このスペース・シャトルの三人はいい関係が保たれているようだった。 だんだん、栞も彼らの関係が分かってきた。
「じゃあ、皆さんは『スペース・シャトル』のクルーって事ですね。」
栞も匠と響の事を気にせず話を続ける。
「そうか、そういう事になるね。三人だけだと、小さいスペースシャトルだよなぁ・・・。 早く大きなスペースシャトルにしたいよ。」
颯は匠と響の方を見ながらこたえる。栞の気のせいか、『TWINKLE』の名前を出してからどうも三人は 何か言いたそうな雰囲気である。颯は後から匠に突かれて栞へ言った。
「今度、『TWINKLE』へ遊びに行っていいかな?」
とっても普通の事のような気がするのに、栞は妙にドキドキしてしまった。 それは三人が目を輝かせて栞の返事を待っていたからだ・・・。
「どうぞ...、いつでも・・・。」