Make Sure The Dream 2

 青年は、栞に会釈をすると池の方へ目線を移した。池には白い紙が数枚浮かんでいた。
「あ〜ぁ、折角徹夜で書いたのに・・・」青年はそう呟くと諦めた様子で、その場から立ち去っていった。
(何が書いてあったんだろう・・・)栞は気になりつつも、青年の背中を見送ると自分も雑貨屋へと足を向けた。

 「TWINKLE」これが栞が働く雑貨屋の名前だ。この店を訪れた人たちの目が「星のようにきらめいて欲しい」そんな思いを込めて 店長の咲良は付けたそうだ。店は路面店で、看板には「TWINKLE」の文字の周りに星がキラキラと描かれている。 店内は木のぬくもりを大切にし、どこか懐かしいカントリー調で作られている。
BGMはカーペンターズの曲をオルゴールにしたCDを掛けている。照明も間接照明にしてあり、ゆっくりと雑貨が楽しめる。

 店に着くと、もうすでに後輩の菜月が店の準備を始めていた。店は店長と栞そしてこの菜月の3名で全員だ。
「栞さん、おはようございます〜。」店の前を掃除していた菜月は元気いっぱいに声を掛けてくれる。 どちらかというと物静かな栞は、いつも元気な菜月が大好きだった。店の雰囲気がいつも明るく笑いが絶えないのは菜月のお陰だと栞は思っていた。 栞は物作りに没頭すると全く話をしなくなる。店長が買出しで不在の日になると、ほとんどの接客業務は菜月一人が請け負っている。 それでも、菜月は愚痴った事は一度もなかった。菜月にとってはどんな布切れでも小物にしてしまう栞は尊敬に値する先輩だった。 何度か菜月も小物作りにチャレンジしたことはあったのだが、じっと座っている事がいかに自分には不向きかが今では十分に理解している。  つまりはいい役割分担となり、この「TWINKLE」は成り立っているのだ。
「今日は天気がいいですね〜。掃除も全然苦じゃないですよ〜。」菜月はほうきを振り回している。
「ほんと、今日は気持ちがいいね〜。だから、今日は歩いてきちゃった」
「それで、いつもより遅かったんですね?」
「ごめんね〜、すぐに手伝うから・・・」足早に店内に向かう。後ろから菜月がほうきを持ったままついてきた。
「大丈夫ですよ。もう大体終わりましたし、後は昨日作ったダイレクトメールを出しに行くだけですから・・・」菜月はほうきを片付けながら顔だけ栞の方へ向けて言った。
「じゃ、それは私が行くよ。ポストへ投函するだけでしょ?菜月ちゃんはレジの用意しておいてよ。」栞はレジ台の上に置いてあったはがきの山を抱える。
「分かりました〜。」菜月は鼻歌を歌いながら、お金を数え始めた。

 ポストはさっき栞が歩いてきた道の途中にあった。つまり、元来た道をたどる事になる。 店を出ると、見覚えのある顔の人が歩いているのが目に止まった。それはついさっき、公園であった青年だった。 青年も栞に気がついた様子で立ち止まる。

「先ほどは、ありがとうございました。」青年は丁寧にお辞儀をしてきた。つられて栞も頭を下げる。
「いえ、お役に立てなくてすみませんでした。」・・・少しの空白の時間が流れた・・・青年は「TWINKLE」の看板を見上げる。
「ここで、働いているんですか?へ〜いつもこの辺歩いているけど、気付かなかった。今度お邪魔しますね・・・」青年はそういうと去っていった。
「栞さん、誰ですか?あの人・・・」いつの間にか、後ろに菜月が立っていた。
「う〜ん、なんていうのかな、さっきそこの公園であった人」
「結構かっこいい人ですね〜。でも、公園であっただけで声なんて掛けます?」浮いた話が大好きな菜月はなんとか恋話へと発展したいようだ。
「別になんてことない、あの人が落とした紙を拾おうとしただけよ。」
「つまんないな〜。それだけですか?名前とか?」
「聞いてない。」
「え〜!!?もったいない!聞いておかないと〜」心底残念そうな顔をする菜月。
「でも、店にお邪魔するって行ってたから、そのうち来るんじゃない?」
「そんなの社交辞令ですよ〜!あ〜、私が公園を歩いてきたらよかった〜」肩を落として店内に戻る菜月。 そうか〜ああいう人をかっこいいって言うんだ・・・恋愛に関しては全くといっていいほど無知な栞は菜月の言葉で勉強するのだった。