Make Sure The Dream 9

「栞さん、どうしたんですか?ぼーっとしちゃって・・・」目の前に菜月の顔が登場して、ビックリして栞は立ち上がってしまった。
「ほんとにどうしちゃんたんですか?栞さんらしくない。風邪ですか?」菜月は栞のおでこに手を当てる。
「う〜ん・・・少し高いかな?」
「そんな事無いよ。昨日少し遅くなっちゃったから、寝不足なだけ・・・」
「また、家で洋服作ってたんですか?」
「まぁね・・・」

 ほんとは嘘だった。洋服なんて作っていない。「スペースシャトル」の3人に出会って、彼らが話したことが 突然で、未だ理解できずにいた栞は一晩中考えていた。

 (私の腕を買って衣装の担当をお願いしてくれるのは嬉しい事だけど、まだ、彼らの事よく知らないし・・・ どうしよう・・・)

 「スペースシャトル」の3人は栞に深々と何度も頭を下げてきた。その姿を見て彼らが本気で演劇を作ろうとしている事は よく分かっていた。純粋に彼らの作る演劇を観てみたかったし、応援もしたいと思った。しかし、自分がその一員となると 話は別だった。

「はぁ〜」大きくため息をついて、席に座る。
「ホント変な栞さん・・・」菜月は自分の事にまったく栞が気付いていないと分かると売り場の方へ戻っていった。

 お昼前、大きな声が店内に響いた。
「みんな、おはよう!」咲良が笑顔で出勤してきた。
「私ね、ちょっと考えたんだけど、みんなの言うとおり『ドゥカター人形』の販売は終了して、 本来の北欧の雑貨をもう一度コンセプトを決めて売ろうと思うのよ。」
そういって、映画のパンフレットをみんなに見せびらかした。
「知ってる?この映画?」
「『かもめ食堂』?なんですか、この映画・・・」菜月がピラピラとページをめくる。
「最近公開していた映画。舞台が北欧なのよ。日本人の女性が向こうで日本食の食堂を作るお話。 で、勝手ながら私の判断で『かもめ食堂』フェアを当店で開催しようと思います!パチパチパチパチ」 自分で拍手の音まで言いながら、手を叩いている。
「具体的にどういう事をするんですか?」栞も菜月と一緒にパンフレットを覗き込む。
「『かもめ食堂』に出てくる雑貨を集めてくるの。そして、映画さながらのセットを再現するの。 日本に居ながら、北欧のキッチンを実際に見て、触れる事ができるのよ。」
「でも、今から雑貨仕入れてくるんですか?大変じゃないですか?」菜月が心配そうに尋ねる。
「大丈夫。何もこの企画昨日今日で思いついたものじゃないから。この間向こうへ行った時に思いついて ある程度の物はバイヤーと話をつけてきたから、すぐに入荷するわよ。」
(さすが、咲良さん)咲良の行動力に栞はあっけに取られていた。

「さぁ、そうと決まったら、場所を作らないとね〜。」咲良は店内を見渡し始めた。
「ここのコーナーは動かしたら駄目ですよ!」菜月が担当しているコーナーの方へ歩き出した咲良を追っかけて 菜月は叫んでいる。咲良はそんな二人のやりとりを微笑ましく見ていた。

「こんにちわ〜!」不意に後ろから声を掛けられる。はっとして振り返るとそこには『スペースシャトル』の3人が立っていた。
「やっぱり、ホームページで見たとおり雰囲気がいい店だな〜。」匠が雑貨を手に取りながら呟く。
「あ、『ドゥカター人形』売り切れだって。残念。みんなに買ってやろうと思ったのに・・・」響が入り口に貼ってあった貼り紙を見ている。
「本当にお邪魔しにきちゃいました。」颯が栞に挨拶をする。
「ねぇ、栞さんが作った小物見せてよ。」単刀直入に響は尋ねる。
「あ、ちょっと待ってね。」小走りに栞は窓際まで駆けて行き、最近出来たばかりの小物たちを持っていく。その姿に気付いた菜月は栞に声を掛けてきた。
「どうしたんですか?栞さん、走ったりなんかして・・・って、あ〜!この間見た人だ!」菜月は栞の方へは行かず、入り口に立っている颯の方へ駆けていった。
「この間、ここの前歩いていた人ですよね〜。もしかして、栞さんといい関係なんですか?」初対面だというのに、失礼極まりない質問をする菜月。 いきなりの質問に動揺する颯の背後から匠が颯の肩に手を掛けながら代わりに答える。
「そうなったら、いいなぁ〜って思っているところ・・・」と匠は言いながら、菜月が手に持っている『アロア』を凝視した。
「それって・・・もしかして、栞さんが作った人形?」菜月は男性が人形に興味を持つのを不思議に思いながら、匠に手渡した。
「そうだけど・・・。お兄さん、人形好きなの?」その質問には横から響が答えた。
「そうなんだよ。こいつこう見えて、こっちなんだよ。黙ってあげて。」と言っておかまのポーズをとって菜月を笑わせた。
「勝手に言ってろよ!」匠が響の頭を小突く。

「お待たせしました。」栞が両手に抱えて、小物たちを持ってきた。