Make Sure The Dream 6

 栞は怪しい団体かと思った。一人は足を折り曲げて座り体を揺らしている。もう一人はフラダンスの様に手を揺らしている。 そして、栞が以前に会った青年は両手を広げて体を揺らしている。
(なんなの?この人たち・・・)見てはいけないものを見てしまった気がして、栞は足早に立ち去ろうとした。彼らに背中を向けた 瞬間、後から彼らの笑い声が聞こえた。驚いて栞は振り返る。立っていられない位に吹き出している。

「響、お前の可笑しい。それ、違うって」座って体を揺らしていた一人が、フラダンスの様に手を動かしていた青年に声を かける。
「そうか?俺のイメージはこうなんだけどなぁ〜」と言ってまた手を揺らし始めた。それを見てまた他の二人は爆笑する。

 その光景は、さっきとは違うどこにでもある仲間と楽しむ青年達の姿だった。栞はその楽しい雰囲気に思わず笑ってしまった。
「とても楽しそうですね。何をなさってたんですか?」
 三人とも全く栞の存在に気付いていなかった様子で、驚いた表情で栞の方へ振り向いた。
「あ、ごめんなさい。いきなり・・・」栞は唐突すぎた自分の行動が恥ずかしくなり、その場から去ろうと身を翻した。
「あ〜、あの時の・・・」見覚えのある青年が栞の元まで駆けてきた。
「颯〜ナンパでもしたのかよ!」響が後からついてきている。
「颯にそんな度胸ないって!」もう一人の青年もズボンの汚れを払いながら顔をこちらに向けていた。 彼の名前は『颯』というのか、栞は今自分の置かれている状況を忘れ、颯の顔を見つめていた。 確かに菜月の言うとおり、整った顔立ちだった。
(大学生くらいかな?意外に幼く見えるだけかも・・・)
「違うよ!この間言ってただろ?台本が全部駄目になったって・・・ あの時、そばにいた人だよ」颯は必死に説明をしていた。
「すいません。急に声をかけたりして・・・あの、私近くの雑貨屋で働いてて・・・ たまにこの公園通るんです。」
「俺、匠って言います。M大の三年生です。よろしく」一番最後についてきた青年が前に身を乗り出し握手を求めてきた。 あまりに自然で栞はつられて握手をする。
「私、栞っていいます。」
「近くの雑貨屋って言ったら『TWINKLE』?」
「はい。そうです・・・。ご存じですか?」三人は同時に何か目配せを送りあっていた。
(なんだろ・・・なんか悪いこと言ったかな・・・)栞に不安がよぎる。
「あの〜さっき台本がどうとか言ってましたけど、お芝居かなにかやっているんですか?」
「そう、実はつい最近この三人で演劇ユニットを作ったんだ。俺ら高校からの同級生。で、今も練習していたところ」響が嬉しそうに答える。
「えっ!?練習・・・」栞にはどういう練習か皆目検討がつかなかった。
「今みんなで『風』を表現していたんだ!こういう感じで・・・」と、響はまたあのフラダンスのような動きを 目の前でやりだした。
「『風』って人でもないし、見える物でもないし・・・なんだか、難しいですね・・・」
「そうなんだ、だから人によって感じ方が違うから表現の仕方も変わってくるんだ。こいつみたいに」 颯は響を指さしながら教えてくれた。
「俺のはすごいぜ!体で風を表して、手の動きで洗濯物が風で揺らいでいるところまで表現しているんだからな! こいつらとはワンランクもツーランクも上だぜ!」響は目を輝かせながらこたえる。
「へぇ〜・・・」栞にはなんともこたえる事ができなかった。
「なにが、『ワンランクもツーランクも上』だよ!芸人みたいな動きをしているだけのくせに!」後から匠が響の頭を小突く。
「いってぇな〜・・・出来ないからひがんでるんだろ?」
「出来ないんじゃなくて、やらないだけ」
「じゃあ、やってみろよ」
「おまえらそこらへんにしとけよ、栞さんの前で・・・。すみません」なぜか颯が謝る。
「いえ、ほんとに仲がいいんですね。・・・」ここで栞はふと心によぎった事を口にした。
「・・・もしかして、あの時池に落ちた紙は台本・・・だったんですよね・・・。大丈夫だったんですか?」
「そう、台本の原稿。今度の僕たちの旗揚げ公演として用意していた台本だったんだ・・・。俺パソコン 持ってないから全部手書きで・・・だから今、一から作り直しているんだ。」 颯はため息混じりに答える。
「でも、大丈夫だって!颯なら・・・才能あるし」響と匠は今けんかしていたのにもう二人で顔を向けあいうなずきあっていた。